東京実業高等学校長式辞

東京実業高等学校長 國分 達夫 

創立100周年を迎えて

 東京実業高等学校創立100周年・東京高等学校創立150周年という記念ある日を迎えるにあたりまして、一言ご挨拶をさせていただきます。

 東京実業高等学校は、初代校長である上野清先生が、明治5年(1872)に私塾である上野塾を開いたことに始まります。上野清先生は、数学教育界の先駆者であり、私立学校の経営とその教育に一生の大半を捧げるという強い思いを持たれた人物でした。上野塾は、その後、東京数学院と改称し、東京数学院尋常中学となり東京中学校へと発展していきました。

 本校は、大正11年(1922)に、この東京中学校の創立50周年を記念し、これからの社会では、「次の時代のための実力養成教育」および「社会に役立つための学問育成」が求められるとの考えから、実業学校令にもとづいて商業課程を行う学校として、神田西小川町の一角に創設されました。特に、実業学校を創設することにつきましては、第3代校長である上野熊蔵先生の「役立つ人材の養成」という強い思いが込められています。
 この建学の精神である「次の時代のための実力養成教育」および「社会に役立つための学問育成」という考えは、100年を経た今日でも色あせることなく、現代にも強く求められる教育の方針であります。
 現代では、変化が激しく、将来の予測が困難なとても難しい時代であり、この時代を逞しく生き抜いていくには、本校が100年にわたってその時々の社会状況を的確に把握して、変容を遂げてきたように、生徒の皆さんにも、将来をしっかり見据えつつ、時代に求められる力を確実に身につけることが求められているのです。
 どんなに厳しく困難な時代になろうとも、それを乗り越えていく力の源泉となるには、自分自身を客観的に見つめつつ、自分の中を垂直方向に貫く、確固たる自分軸を構築することにあります。
 「自分とはどんな人間なのか」「自分が本当にやりたいことは何なのか」「人生にとって高校時代はどのようなものか」というように、自分自身を絶えず理解しつづけようとする姿勢や習慣を身につけることが大切なのです。
 自己理解を深めつつ、より良き自分を築き上げようと努力する姿勢は、生徒皆さんの「自分軸」を太く逞しいものへと形づくり、変化の激しい、不確実な状況の中でもブレることなく、自らが望む未来に向けて突き動かす推進力となっていくのです。

 今日のような節目の時にこそ、創立者や創立に関わられた方々への思いを巡らせつつ、新しい時代を切り拓いていく力となる自分軸をしっかり確立しようとする意識と意欲を高めて、教育活動に懸命に打ち込む決意を新たにすることを期待します。

 最後になりましたが、本日ご列席を賜りましたご来賓の方々のご支援の下に、東京実業高等学校が、生徒、教職員、保護者、そして、東京高等学校の皆様と一丸となって、教育活動を推進することにより、益々発展していく事を祈りまして、挨拶とさせていただきます。